神奈川の地名丼を探してみたら意外と奥が深かった

2022年2月27日

Pocket

地名丼とは

先日江ノ島に行く機会があり、その時に江の島丼という丼ものを食べた。

サザエと江ノ島の名物であるしらすを卵でとじ込んだどんぶりで、これがとても美味しかった。

その時にふと思ったのだ。丼ものというのは全国に沢山あるが、今回の江ノ島丼のような「地名+丼」という名前の丼ものはどれくらい存在し、そしてそれはどんな丼ぶりなのかと。

ということで、神奈川県内の地名丼を探してみることにした。

神奈川の地名丼

江の島丼

まずは冒頭で紹介した江の島丼から。

江の島丼は、江の島の仲見世通りにある「ハルミ食堂」が発祥とされており、なんとルーツは明治末期から大正時代にまで遡るとのこと。

ハルミ食堂。食品サンプルのクオリティが高い。

現在では、この江の島丼は江ノ島の定番メニューの一つとなっており、このハルミ食堂だけでなく至る所で提供されているようだ。

江の島丼。箸ではなくレンゲでかきこみたくなる味。

刺身が山盛りの海鮮丼に比べると見た目は地味だが、コリコリとした歯応えのサザエと、磯の風味がしっかりと残るしらすを甘じょっぱい半熟卵でとじた丼ぶりはとにかくご飯が進む味となっている。

江ノ島の仲見世通りを訪れた際には、是非食べてみて欲しい料理だ。

鎌倉丼

2つ目は「鎌倉丼」。鎌倉丼の歴史は江ノ島丼に比べるとやや新しいようで、昭和30~40年頃から観光客向けに長谷周辺で提供されたのが始まりであるとのこと。

「鎌倉~」という名称は鎌倉野菜とか鎌倉パスタとか鎌倉ハムなど色々あるのだが、江の島丼に比べると「鎌倉丼」を実際に食べたことがある人はかなり少ないのではないか。

というのも、その昔鎌倉の海では伊勢海老を一回り小さくしたような海老(鎌倉海老)が沢山水揚げされていたらしいのだが、近年ではめっきり漁獲量が減ってしまい、現代では提供している店がほとんど無いようなのだ。

さらに、鎌倉丼を提供していた有名なお店として「天金」という老舗があったらしいのだが、新型コロナの煽りを受けてか、なんと閉店していることが判明。他に鎌倉丼を提供している店を探すのが結構大変だった。

それでもなんとか鎌倉の小町通りにある「峰本(みねもと)」というお店で鎌倉丼を提供しているという情報を発見。早速食べてみる。

峰本。鎌倉駅から小町通りをしばらく北に進んだ右手にあります。

さて、肝心の鎌倉丼であるが、海老の天ぷらと玉ねぎを卵でとじたどんぶりである。親子丼の鶏肉が海老天に置き換わったと想像してもらうと分かりやすいかもしれない。

鎌倉丼。海老が三本も入ってて嬉しい。

言ってみればそれだけの料理なのだが、これが中々に美味しい。出汁のきいたつゆがしみ込んだ衣とプリプリとした大きめの海老、ふわとろに仕上げられた卵の組み合わせが絶妙にマッチしている。

今回紹介した峰本は鶴岡八幡宮近くに本店があるほか、長谷駅周辺にある以志橋(いしばし)という店でも鎌倉丼を提供しているようだ。機会があればこちらの店も行ってみたい。

三崎丼

三つ目は三崎丼。三浦半島の先端にある三崎港周辺で提供されている地名丼である。

三崎港といえば、水産業の振興において最も重要とされる「特定第3種漁港」の指定を受けた13港の一つで、全国的に有名なマグロの水揚げ地域である。

町を挙げてまぐろを熱烈に推しており、和食からイタリアンまでほぼ全ての定食屋でまぐろ料理を提供しているほか、まぐろをお得に食べられる「まぐろきっぷ」まで販売している。

人生で初めてまぐろでゲシュタルト崩壊した

そんな三崎で提供される三崎丼だが、当然のことながらまぐろの丼ぶりである。江の島丼や鎌倉丼のような特に決まった調理法やルーツもないようで、どの店も自由にやっているようだ。

今回訪れた七兵衛丸。三崎「どん」と平仮名なのがなんだか可愛い

今回食べたのは「七兵衛丸」の三崎どん。炙ったまぐろとまぐろの刺身、しらす、あとなぜかかぼちゃの天ぷらと卵焼きがのっているどんぶりだ。まぐろ好きにはたまらない丼だろう。おつまみにまぐろのハツ(心臓)も頼んでみたが、これもレバーのようで美味しかった。

三崎どん。真ん中の茶色い物体がまぐろのハツ。

小田原丼

最後に紹介する地名丼は「小田原丼」。小田原市で提供されているどんぶりである。

今までの地名丼は基本的に「ある店がはじめた料理がいつの間にか地域に広がって定着した」or「地元の名物が丼ぶりになった」パターンだったが、小田原丼は少し事情が異なる。

というのも、小田原丼は小田原市が推進している「小田原ブランド元気プロジェクト」の一つとして2010年に誕生した丼ぶりなのだ。当プロジェクトの公式サイトによると、具体的には、

「小田原どん」は、三つのこだわりで小田原自慢の食材をおいしく調理し、遠来のお客様をおもてなしいたします。

一つ、小田原の海と大地で育まれた食材を一つ以上用いること
二つ、伝統工芸品・小田原漆器の器に盛って饗すること
三つ、お客様に満足していただき、小田原がもっと好きになるように、おもてなしすること

この三要件を満たしたものが公式に「小田原どん」と名乗る資格が与えられるようだ。ちなみに「小田原丼」ではなく「小田原どん」らしい。

逆にいうとこの三要件さえ満たしていれば、材料は何でも良かったりするのが小田原丼の面白いところ。小田原は海が近いこともあり海鮮がメインの小田原どんが多いのだが、中にはお茶漬けやローストビーフがメインの小田原どんもあるようだ。

今回は数ある小田原丼を提供する店の中から、小田原駅西口を出てすぐの通りにある「小田原魚河岸 でん」で食べることにした。

おいしいもの横丁という直球なネーミング

この店の小田原どんではその日に水揚げされた魚によって提供される刺身が違うようで、この日は寒ブリとメジマグロ、しめ鯖、クロダイが盛り付けられていた。

小田原地魚どん。店の中には芸能人らしきサインが沢山貼ってあった。

今回食べてきた地名丼はどれも良かったが、その中でもこの小田原どんが一番美味しかったかもしれない。要は海鮮丼なのだが、ただただ刺身が美味しい。特に脂ののったメジマグロと〆鯖のコンビは最高に旨かった。

地名丼は奥が深い

軽い気持ちから始めた地名丼探しだが、単に地名をつけた丼ものという訳ではなく、地域の歴史や文化、行政の取り組みなどの背景がそれぞれの地名丼を通じて浮かび上がってきて、調べていてとても面白かった。しかもどれも美味しい。

他方で、「〜丼」というのは無数にある一方、大体は「海鮮丼」や「ローストビーフ丼」等のように材料や調理法が名前として付けられており、純粋に地名を冠した丼ぶりというのは思ったよりレアなようだ。

今後日本各地に旅行に行った際には、まだ見ぬ地名丼を発掘していきたいと思う。